名古屋から京都へ(その2)(平成14年9月6〜7日、土曜日)


9月6日

(9月7日、京都へその2)
 目が覚める。5時を少し回っていた。夜明けはまだだが、とても好天を望める日ではなかった。6時21分の名古屋発大阪行きに乗るため、ゴソゴソと準備を始めた。女房殿は横で寝息を立てている。5時45分、タクシーで名古屋駅に向かう。今にも雨が降りそうである。突然、忘れ物に気がついた。大切なデジタルカメラを忘れてしまったのだ。すぐに引き返そうとも思ったのだが、馬鹿らしくなって止めた。情けない限りである。しょうがないので使い捨てカメラで代行する事にした。この日は最初から変であった。

 新幹線ホームは6時にならないと開門されない。こんな早朝にも関わらず多くの人が改札口で待っていた。時間になりホームへ上がる。全車自由席のこだま号に乗るため、禁煙車の前に並ぶ。列車は時間どおりに入ってきた。車両の東側の席を取り、今日の計画を練り始める。今回の目的は、近江八幡から京都までを走る事である。京都まで行って、在来線で近江八幡.........その時、重大なことに気が付いた。自転車の鍵を忘れたのである。自転車を預ける時にはしっかりと施錠がしてある。鍵が無いと言う事は...........次の駅(岐阜羽島)で降りて引き返すべきか、家族のものに持ってきてもらうか、.....あれこれと考えるが名案は浮ばない。女房殿に連絡すると、「鍵を壊せば良いがね」と簡単に答えが返ってきた。「あんな頑丈なワイヤが切れるはずないが」と返すと、「自転車屋には必ずカッターがあるから、切ってもらったら」と言った。........いろいろ考えたがやはり名案は浮ばない。そんな事を考えているうちに、列車は米原を過ぎようとしていた。情けない話だが、自転車はあきらめる事にした。こんな恥ずかしい話はない。ホテルが予約してあるので、今回は京都観光一本に絞る事にした。列車は京都に着いた。

 京都は雨であった。激しい雨であった。雨のお陰で幾分か情けない気持が癒された。鍵を忘れなくても今日は無理だったんだと無理やり思い込むことにした。(結果的には自転車に乗らなくて正解であった。雨の中を無理していたら死んでいたかも知れなかった。後日談)駅前のサークルKで安物の傘を500円で買う。傘をさし、街の中に出て行った。
 先ず、最初に向かったのは、クロネコ大和の宅配便センターである。先週の挑戦で自分の体力の限界を感じていた。京都まで来ても、とても復路をこぎ切るだけの体力はなかった。そこで考えたのは、復路は自転車を宅配してもらう事であった。センターで12,000円払うと間違いなく名古屋の自宅まで2〜3日中に届けてくるという確認をとった。これで、気持が随分楽になった。雨は激しさを増していた。
 次は、嵐山に行きたかった。出来ればウオーキングで行きたかった。雨の中を歩き始める。京都はどこを歩いても退屈しない。市内地図の概略は頭に入っているが、予期しないものに出会う事が多い。西本願寺も偶然であった。西本願寺は世界文化遺産である。境内に入ってみたが、ちょうど改修工事の最中であった。巨大な体育館のような建物に本堂がすっぽりを覆われていた。道路の向かい側に大きな鳥居がある。恐らく東本願寺へつながる参道になっているのだろう。さらに北に進む。嵐山行きのバスが多く通る。そのバスの後を歩いていけばいいのだろうと安心する。
 堀川通りを四条堀川で左折する。雨は相変わらず激しい。この辺りで歩く根気が急速に失せた。ここからは京福電車(嵐山線)に乗った。四条大宮である。時間がゆっくりと流れる京都の町にぴったりな電車である。時速はせいぜい30kmぐらいではないだろうか。ガタンゴー、ガタンゴーという響きが心地よい。太秦映画村を過ぎ電車は嵐山に着いた。約40分の乗車であった。
 駅を出て本通にでると傘など役に立たないほど雨が激しい。この道を真っ直ぐ10メートルも歩くと渡月橋である。渡月橋を渡り対岸へ行ってみたが、旅館街があるだけで特に面白くはなかった。取って返し渡月橋の直ぐ横にあるレストランで休憩をと思ったが、時間が9時前だったのでまだ開いていなかった。ゆっくりと旅情を楽しみながら“情報処理の参考書”を読もうと思っていたが、その夢もはかなく破れた。今回の旅はなにかついていない。
 渡月橋を背に100メートルも歩くと左手に天龍寺がある。この寺の前は何度か通ったことがあるのだが、入る機会がなかった。時間がたっぷりある今回こそはと境内に入っていく。若い女の子のグループが先を歩いている。雨が若干小ぶりになった。天龍寺には有名な庭があるとの事で、入場料1000円を払い中に入る。正面には大きな達磨の屏風が飾られている。本堂へ足を運ぶと、そこには美術書で見たことのある龍の水墨画が描かれた襖があった。ギョロッとした大きな目がこちらをにらんでいる。アベックが床に腰をおろし、庭を眺めている。私もそこにどっかと腰をおろし、雨の中の庭園を楽しむ。素晴らしく手が入れられており、歴史がそこに留まっていた。私はカバンから“情報処理の参考書”を取り出し、セキュリティ関連のページを呼んだ。この行為は明らかに可笑しい。しかし、私は30分ぐらいそこでじっとしていた。お客が多くなってきたのでその場を立ち上がった。許されるならもう少し........
 天龍寺を後にし、嵯峨野の竹林の中を歩く。もやでボンヤリとしている。早朝、雨降りということでそこを歩く人も少ない。フラッシュをたかないと写真は撮れない。散策を楽しみながらトロッコ駅に来た。今はシーズンオフらしくシャッターが下りていた。時間が早かったかもしれない。
 念仏寺か大覚寺かと迷っていた。雨が上がったので、大覚寺まで歩く事にした。途中、清涼寺でお参りをする。30分も歩くと大覚寺である。ここはたびたび映画のロケが行われるので、本堂も見慣れた感じである。入場料を払い、中に入る。大きな屏風の前に座り込み、案内用のテープを聞く。建物の東側に立つと、大沢池が広がる。この風景も時代劇でよく見る。遠山の金さんが出てきそうな感じがするから可笑しい。大覚寺を出た。ここからはバスで京都駅に向かう。京福電車に乗った四条大宮で降りる。所要時間40分といったところである。
 ここからは、あてども無く歩くことにした。ともかく東に向かって歩けば迷うことも無かった。時間は11時だった。空腹も覚えていたので、おいしそうな昼食場所を探しながらのんびりと歩いた。雨は完全に上がっていた。古いたたずまいと商店街の細い路地を選んで歩いた。ナップが肩に食い込んで行動を制限されているのが、悔しかった。軽装で気軽に歩けていたら、もっと京都の町を楽しめただろうに。小1時間も歩き、昼食を取った。烏丸通りに面した牛丼屋であった。これは少し情けなかった。ちょっとしゃれた料亭といきたかったのだが、結局はいつもながらの食事になってしまった。食事を終え、地下鉄で京都駅に向かった。

 京都駅に来たのは、特に目的があるわけではなかった。妙に疲れていた。映画を見ることにした。構内を歩き回ったのだが映画館への案内板が見つからない。エスカレータで2階に上がる。オープンカフェテラスを抜け、東側に行くと、そこにはアトム館(手塚治)がある。そこで映画館のことを聞く。どうも四条河原町あたりに行けば沢山の映画館があるらしい。折角来たのでアトム館へも入館した。入場者は私を含めて4人と、寂しかった。再びバスに乗り四条河原町に向かった。見慣れた風景が車窓から見える。思いナップ(20kg)から開放されていた。
 四条河原町でバスを折り、北に少し歩き、左折すると新京極通りに出る。この辺りは、名古屋の大須界隈と似た感じである。真っ直ぐ行くと錦市場に出るのだが、これを右折し、暫く歩くと映画館(MOVIX)があった。およそ京都には似つかわしくない近代的な建物であった。マクドナルドでハンバーガーを買って映画館に入る。「タイムマシン」という映画であった。リメイク版なのでスト−リ−が分かってしまったが、それなりに楽しましてくれた。
 午後4時30分と少し時間的には早いが、ここからは烏丸御池の京都ハートンホテルまで歩くことにした。数分歩くと右手に本能寺があった。歴史上最も有名なお寺の一つである。しかし、ここは信長が焼き討ちにあった本能寺ではなく、後年、移築されたお寺でった。それでも信長が祭られていた。写真を数枚撮り、境内を跡にする。御池通りに出て左折する。車が多く通る広い通りである。この通りには京都市役所もある。急にナップの重みが気になりだし、胸が息苦しくなってきた。心臓発作では?と思ったが、それほどの息苦しさではなかった。それでも用心のためにニトログロセリンを舌下した。症状はすぐに治まったが、10分間ぐらいベンチに座っていた。(今思えば、このときから再発は始まっていたのだ。後日談)ナップを抱えながらホテルに向かう。ホテルに着いたのは5時を少し回っていた。フロントで手続きをし部屋に入った。直ぐに熱いシャワーを浴びベットに寝転んだ。一日のことを思い出してみる。カメラを忘れ、自転車のキーを忘れ、雨の中を歩き....それでもそれなりに充実した日であった。
 その後、夕食の弁当を買いにホテルを出た。京風の懐石弁当と思ったのだが、結局はコンビニ弁当。町は夜のとばりに包まれていた。京都の旅情を十分に味わうことができた。

9月8日(日)

 熟睡の後、目が覚めた。まだ、6時であった。別に何をするというスケジュールもなかったので、ベットでゆっくりとまどろんだ。久しぶりにゆっくりできた。それでも7時30分にはホテルをでた。
 早めに帰ろうかとも思ったが、折角の京都なので、喫茶店に入り今日の予定を立てることにした。映画を見て、祇園を歩き、八坂神社、清水寺へという計画を立てる。熱いコーヒーを飲みながら自宅に電話をする。久しぶりに女房殿の声を聞いたような気がした。「夕方には帰る」と話す。
 映画を見て、河原町まで出る。四条大橋を渡る。正面に八坂神社が見えた。南座を右に見て四条通りを歩く。南座の横に回転寿司があった。入ろうかとも思ったが、今日はもう少しいいところで昼食を取りたかった。一力亭を右に回ると祇園である。祇園というのはこの辺り一体を言うので、祇園であるという表現は間違っている。お茶屋さんが並ぶこの筋(花見小路通り)が一番祇園らしいと思っているので、ついついこんな言い方になってしまう。途中、天婦羅屋に入り、大えび天丼1500円を食べる。上品な味なので少し物足りなさは残ったが、これも京都だからと納得した。この小路を抜けるとJRAの場外馬券売り場がある。ここで、馬券を少し購入する。ここは1000円単位でしか売ってくれないので金欠病の私には少し辛い。結果は予想通りの惨敗。
 妙に疲れた。清水寺まで歩く気力はなかった。来た道を同じように引き返した。河原町御池から地下鉄に乗り、京都駅に向かった。新幹線に乗り込み京都を後にした。家が妙に懐かしく思えた。



概略地図(Yahoo Map)